オーストリア気象地球力学研究所(正式名称:Zentralanstalt für Meteorologie und Geodynamik、通称:ZAMG)はオーストリア科学研究省に属する、1981年に創設された世界初の気象研究機関です。世界気象機関(WMO)からはオーストリアを代表する研究機関として認められています。
ZAMGは福島第一原発での事故後3月12日の時点で最初の拡散予想を発表しました。それ以来現在までシミュレーションの更新を続けて来ておりサイトトップページ下部の最新情報(Neue Informationen)からは過去の全予測が更新履歴として閲覧できるようになっています。ここでは先ずこの更新履歴から読み取る事の出来るこれまでの流れを翻訳紹介していきます。
ZAMGは3月15日から世界気象機関(WMO)の依頼を受けてウィーンにある国際原子力機関(IAEA)の事故および緊急事態対応センター(IEC)に詳細な拡散シミュレーションと気象情報を提供しています。
この15日の時点では放出源の放射線量が不明であった為、このシミュレーションは希釈度と気流による粒子の移動のみを表しているとの注意書きがしてあります。(この時点ではドイツ気象局による分布シミュレーションと同様。)
16日には事故後最初の包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)による放射性核種の観測結果がZAMGに届いており、22日の更新ではその観測値を基にZAMGが算出したおおまかな推定総放出量が発表されています。それによるとこの時点でのヨウ素131の推定総放出量は4 1017でこれはチェルノブイリでの総放出量の20%にあたるそうです。セシウム137に関しては3 1015から3 1016ベクレルの推定総放出量が見込まれ、これはチェルノブイリでの総放出量の20%から60%に昇る可能性がある事も指摘されています。
24日の更新ではZAMGの計算による実効線量の推定値も発表されています。それによると福島第一原子力発電所周辺の推定実効線量は毎時1〜5シーベルトと算出されており、これはIAEAのデータとも一致しているそうです。実際の観測値ではなくあくまで推定の実効線量ではありますが、少なくとも放出源の実効線量がシミュレーションにおいても設定されているという点でこちらの拡散予測はドイツ気象局のものとは異なったものとなります。
25日の更新ではCTBTOによる観測についての説明がありました。以下要約です。
「CTBTOは群馬県高崎を含む60の観測所を世界中に配置しており、高精度で放射線を検知することができます。一方で国内(オーストリア)における放射線監視システムに比べるとその密度は低く、各観測所で放射性物質が検知されたからといって即ち健康への被害を意味するわけではありませんし、健康を害するレベルの放射能が観測所において検知された事はこれまでありません。実効線量の測定は行っておらず、ヨウ素131やセシウム137の様な個々の放射性同位体の大気中の密度を観測するのみとなります。これまで(事故から2週間)の間に世界中にある24の観測所で福島からの放射性物質が検知されており、これは粒子が極めて希釈された状態で気流に乗り北半球全体へと行き渡っている事を示しています。」
更に30日の更新にシミュレーション条件についての記述があります。福島第一からのヨウ素131の推定放出量が一日あたり1017ベクレルであり、その値に基づいてシミュレーションされています。拡散モデルには欧州中期気象予報センター(ECMWF)の気象データに基づくFLEXPARTのバージョン8(訳注:FLEXPARTはノルウェー気象庁によって開発された粒子拡散モデル)を使用しており、粒子の自然降下(降雨によるものも含む)も充分に考慮されているそうです。
シミュレーションの精度を検証する為にZAMGでは、下記の様なCTBTO各観測所での実際の観測値とZAMGによる予想値との比較という事も行っています。青のグラフが実際の観測値、赤がZAMGによる予想値になります。

以上の様な過程を経て現在は粒子拡散予測用特設ページが設けられており拡散予想図と日本上空の天気予報が毎日更新されています。本ページの右上にZAMGの特設ページ上にある情報の翻訳を掲載しています。
この図が何を表しているのかをご理解して頂く為に先ずは左の解説をお読み下さい。
この予測図は福島原子力発電所における事故:放射性物質(ヨウ素131)拡散予測(訳注:大気中)
※図中で示されているUTC(協定世界時)に9時間を足したものが日本標準時となります。
現時点では五色によって段階付けされており、
Aエリア(紫):最大毎時0.3マイクロシーベルトの推定実効線量(自然界における通常放射線量の最大値に相当)
Bエリア(青):最大毎時3マイクロシーベルトの推定放射線量
Eエリア(橙):推定最大実効線量毎時3ミリシーベルト(これは福島第一原発を中心にした25キロ平方メートルの区域内での実効線量の推定最大値)
となります。
新たな観測結果(訳注:CTBTOによる)が出された場合はその都度この図に適用されます。
事故現場においての放射線量は現在減少してきており実際の影響範囲はこの図よりも狭まるであろう事に注意して下さい。
CTBTOの基局による観測値を基にして放出源の実効線量が算出されていますが、CTBTOの観測所は日本国内に一箇所しかなく、各色のエリア内で実際に計測された値は必ずしも反映されていないという事に注意しなければなりません。
以上を理解して頂いた上で、他国の気象機関によるシミュレーションに対する比較対象になればと思います。